大津地方裁判所 昭和35年(む)62号 判決 1960年5月23日
被告人 光永明正
決 定
(申立人氏名略)
右の者から被告人光永明正に対する窃盗被告事事件について大津簡易裁判所裁判官坂本徳太郎が昭和三五年五月一一日になした保釈請求却下決定に対し準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原決定を取消す。
別表記載の条件を附して被告人光永明正の保釈を許す。
保証金は壱万円とする。
理由
本件準抗告の要旨は抗告申立書中抗告の理由記載のとおりであるからこゝにこれを引用する。
本件被告事件の一件記録によれば大津簡易裁判所裁判官坂本徳太郎が昭和三五年五月一一日申立人主張のような保釈請求却下決定をした事実は明白である。しかしながら該記録を検討するに、被告人がびわこ競輪場内において被害者所有の革財布一ヶを所持していたところを相被告人高石光春と共に現行犯として逮捕された事実、被告人は相被告人高石と共謀の点を終始否認しているが、相被告人高石は取調官に対し被告人との共謀(被告人を見張にたて、自分が掏取つた革財布を同人に渡した事実)の点を逐一詳細に供述しており同人は現に勾留中である事実及び本件捜査も一応終了している事実が認められる。このような状況においては、他に特段の事由なき限り被告人において刑事訴訟法第八九条第四号所定の事由があるとは認められない。
尚職権をもつて調査するに被告人につき同法同条所定の他の各号に該当する事由ありとも認められない。そうとすると同法条に基いてなされた本件保釈請求はこれを許可するのが相当であるからこれに反して右請求を却下した原決定は不当として取消さるべきである。よつて原決定の取消及び被告人に対する保釈の許可を求める本件準抗告の申立を理由ありと認め刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項を適用し、尚保証金額につき諸般の事情を考慮し、更に別表記載の条件を附して主文のとおり決定する。
(裁判官 江島孝 佐古田英郎 吉川正昭)
指定条件
一、逃亡しもしくは罪証を湮滅すると疑われるような行動は避けなければならない。
二、召喚を受けたときは正当な理由がなく出頭しないようなことがあつてはならない。
三、被告人は京都市南区西九条南田町四七光永令市方に住居しなければならない。
四、三日以上の旅行又は転居の際には予め書面をもつて裁判所に申出て許可を受けなければならない。
以上
準抗告の申立
被告人 光永明正
右被告人に対する窃盗被告事件について保釈申請をしたところ保釈却下の決定を昭和三十五年五月十一日受けましたが不服でありますから準抗告の申立をします。
理由
一、原決定は保釈却下の理由として「証拠隠滅の虞れがある」というのであるが、被告人は終始犯行を否認しておるのであり犯行を否認しておるからと言つて、証拠隠滅するというのは、関接には自白の強要になり公正なる裁判を期待できないことになる。殊に被告人は初犯であり容疑事実も一個であり別紙診断書の如く病気であり勾留が続けば病状は一層悪化するし犯行を否認しておるから証拠隠滅の虞れありと言うのは被告人の防禦権を無視し却て真実の発見を著しく阻害する見解である。被告人は初犯であり当然保釈は許さるべきものであるのに原決定は之を却下したので本申立をしたものである。
昭和三十五年五月二十日
右弁護人 柏原武夫
大津地方裁判所 御中